製造現場の改善活動では、5S、標準化、IE、TPM、品質改善など、さまざまな手法が使われます。一方で、現場が一定レベルまで成熟してくると「改善のネタが枯れてきた」「他社はどこまでやっているのか分からない」「投資対効果を示しにくい」といった壁に直面しがちです。
そこで有効になるのが「ベンチマーキング(Benchmarking)」です。
ベンチマーキングは、自社のプロセスやパフォーマンスを、優れた組織や業界のベストプラクティスと比較し、学び、改善へ落とし込む手法です。単なる「真似」ではなく、成功要因を構造的に理解し、自社に適用可能な形に変換して成果に結びつけるのがポイントです。
ベンチマーキングの3つの目的(製造業での効きどころ)
1. プロセス改善:ムダを減らし、品質と生産性を上げる
優れた組織の工程設計や段取り、標準作業、検査の組み込み方、設備保全の仕組みなどを知ることで、改善のヒントが一気に増えます。
自社の現状だけを見ていると「それが当たり前」になっている非効率が、外部比較によって明確になります。
2. パフォーマンス向上:指標の差分から“打ち手”を見つける
ベンチマーキングでは、生産性・品質・納期・コストといった指標で他社と比較できます。差が出ている場合、「なぜ差が出ているのか(成功要因は何か)」を分析することで、改善策が具体化します。
例:
-
不良率が低い → 工程内品質の作り込み、検査設計、教育体系に差がある
-
段取り時間が短い → SMEDの徹底、治工具管理、準備工程の分離が進んでいる
-
OEEが高い → 保全体制、停止要因の見える化、復旧標準が整備されている
3. 競争力強化:勝ち筋を取り込み、優位性を作る
競争が激しい製造業では、改善スピードそのものが競争力になります。
他社のベストプラクティスを学び、自社の製造プロセスや品質管理へ落とし込むことで、コスト競争力・品質信頼・納期対応力を強化できます。
製造業でのベンチマーキングの進め方(基本ステップ6+1)
ここからは、成果につながりやすい流れで整理します。
ステップ1:目標設定(どこを、どの指標で伸ばすか)
まず、ベンチマーキングの目的を明確にします。
「何となく見学に行く」「良い事例を探す」では、持ち帰りが曖昧になりがちです。
設定例:
-
段取り替え時間を30%短縮したい(指標:段取り時間、停止時間)
-
工程内不良を半減したい(指標:不良率、手直し工数、流出件数)
-
生産性を向上したい(指標:工数、生産数量/人時、OEE)
ステップ2:ベンチマーク組織の選定(比較相手を間違えない)
比較相手は、次の観点で選ぶと精度が上がります。
-
同業他社(類似工程・類似設備・類似品質要求)
-
異業種の先進企業(考え方・仕組みが優れている)
-
自社内の優良ライン/優良工場(社内ベンチマークは導入が早い)
特に製造業では、製品特性・ロット・工程設計・自動化度が違うと単純比較ができません。比較の前提条件をそろえる意識が重要です。
ステップ3:データ収集(“数字”と“やり方”をセットで集める)
収集すべきは、結果の指標だけではありません。
成果を出している背景(プロセス・運用・教育・仕組み)まで含めて集めます。
例:
-
指標:不良率、OEE、停止要因、手直し工数、リードタイム
-
仕組み:標準作業票、監査方法、教育体系、保全基準、改善提案制度
-
運用:朝会・QC活動の回し方、現場の権限設計、異常対応フロー
ステップ4:分析と評価(差分を“構造化”する)
ここがベンチマーキングの肝です。
差を見つけたら、「何が違うか」を分解し、再現可能な形で理解します。
おすすめの整理方法:
-
プロセス(工程設計・レイアウト・作業分解)
-
人(教育・技能・役割分担)
-
設備(保全・冶具・自動化)
-
ルール(標準・監査・異常管理)
-
データ(見える化・KPI設計・改善サイクル)
ステップ5:改善策の策定(自社向けに“翻訳”して設計する)
他社のやり方をそのまま入れても機能しないケースは多いです。
重要なのは、成功要因を理解した上で自社の制約条件(設備、人員、品種、品質要求、文化)に合わせて再設計することです。
実務で有効な形:
-
すぐやる施策(1〜2週間で試せる)
-
仕組み化施策(標準化・教育・監査)
-
投資を伴う施策(設備・治工具・DX)
ステップ6:改善の実施(小さく試して、早く回す)
最初から全社展開せず、パイロットラインで試験導入 → 効果測定 → 横展開が成功しやすい進め方です。
現場の負荷を抑えつつ、数字で成果を示せるため、関係者の合意も取りやすくなります。
ステップ7:モニタリングと継続的改善(“一回で終わらせない”)
改善は実施して終わりではなく、維持が難しいのが現場の現実です。
定期的にベンチマーキングを行い、競争力を維持・向上させる運用が理想です。
ベンチマーキングを成功させるコツ(現場で起きがちな落とし穴を回避)
-
目的とKPIが曖昧だと、見学・情報収集がイベント化する
-
数字だけ集めて終わると、再現性のある改善に落ちない
-
自社の前提条件を無視して真似すると、定着せず形骸化する
-
現場を巻き込まないと、抵抗が出て運用が回らない
逆に言えば、目的・比較条件・分析・自社翻訳・小さく実験、この5点を押さえれば、ベンチマーキングは非常に強力な改善エンジンになります。
まとめ:ベンチマーキングは「学びを成果に変える」改善手法
ベンチマーキングは、製造業の現場において以下を実現する有効な方法です。
-
他社のベストプラクティスから改善のヒントを得てプロセスを改善する
-
指標比較で成功要因を掴みパフォーマンスを向上させる
-
学びを自社に適用し競争力を強化する
改善活動が停滞している、打ち手が出てこない、改善の説得材料が欲しい。そうした状況ほど、ベンチマーキングは効果を発揮します。ぜひ、目的と指標を定めたうえで、段階的に取り入れてみてください。


コメント